数字の奥に隠された真実:ドラマ『天地に問う~Under the Microscope~』あらすじとネタバレ、明代の光と影

中国ドラマ『天地に問う~Under the Microscope~』基本情報とあらすじと見どころ
天地に問う~Under the Microscope~ | |
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原題 | 显微镜下的大明之丝绢案 |
別名 | 显微镜下的大明 、 显微镜下的大明之金华丝绢案始末 、 大明宫 、殿下与臣民 |
原作 | 『显微镜下的大明』 |
原作者 | 馬伯庸 |
主演 | 張若昀 (チャン・ルオユン)、王陽 (ワン・ヤン)、呉剛 (ウー・ガン)、高亜麟 (ガオ・ヤーリー)、費啓鳴 (フェイ・チーミン)、戚薇 (チー・ウェイ) |
主な受賞歴 | 2023年首都テレビ番組春季推薦会 年間優秀ウェブドラマ、iQIYIスクリームナイトドラマ部門 年間優秀作品集、国家ラジオテレビ総局2023年度優秀インターネット視聴作品推薦活動 優秀作品リスト |
監督 | 潘安子 |
脚本 | 馬伯庸 (総脚本)、周荣扬 |
総監修 | 王晓晖 |
撮影地 | 横店影視城 |
初回放送日 | 2023年2月9日 |
初回放送局 | 北京衛視 (2023年7月10日放送) |
配信プラットフォーム | iQIYI (愛奇芸) |
話数 | 全14話 |
各話分数 | 約41分 |
撮影期間 | 2021年9月12日~2021年11月 |
明朝万暦年間、張居正による「一条鞭法」の改革が推し進められていた時代。物語の幕は、一つの些細な発見から上がります。算術以外のことにはまるで頓着しない、しかし数字にかけては天才的な才能を持つ帥家黙(チャン・ルオユン)。人々からは「算呆子(計算バカ)」と少々侮蔑的に呼ばれる彼が、ある日偶然にも、仁華県が百年以上にわたり不当に多く納め続けてきた「人頭絹税」という税の誤りを見つけ出します。この発見が、穏やかに見えた水面下に潜む、七つの県をまたぐ巨大な利権の構造を揺るがすことになるとは、彼自身もまだ知る由もありませんでした。
帥家黙の純粋すぎる正義感と、数字への執着は、彼を否応なく官界と民間が複雑に絡み合う争いの渦中へと引き込みます。彼の前に立ちはだかるのは、巧妙に仕組まれた帳簿の罠、そしてそれを守ろうとする既得権益にしがみつく者たちの姿。そんな彼の前に現れるのが、口八丁手八丁で渡り歩く腕利きの訟師、程仁清(ワン・ヤン)です。当初は自らの利益のために帥家黙の行動を阻もうとする程仁清ですが、彼の真っ直ぐな姿に触れるうち、次第にその心に変化が芽生え始めます。対立していた二人が、いつしか理想と現実的な知恵を補い合うように手を取り合う姿は、この物語の大きな見どころの一つと言えるでしょう。
帥家黙が突き止めた「三千五百三十両」という具体的な数字は、単なる計算間違いでは済まされない、明代の地方行政に深く根差した腐敗の氷山の一角でした。仁華県が長きにわたり、他の六県の税負担まで背負わされていたという驚愕の事実。その裏には、役人たちの癒着と隠蔽工作がありました。調査が進むにつれ、地方の有力者、腐敗した役人、そして市井の様々な勢力が、それぞれの思惑を抱えて蠢き出します。帥家黙は県庁から杖で打たれ、命を狙われ、さらには自身の家族の過去にまつわる衝撃的な真実にも直面することになります。
このドラマは、単なる勧善懲悪の物語ではありません。馬伯庸氏の原作『显微镜下的大明』が持つ歴史の重みを、より人間ドラマとして昇華させようという試みが感じられます。朝廷の権力闘争といった壮大なスケールではなく、ごく普通の人々が、巨大な税の不正という不条理にどう立ち向かうのか、その姿を丹念に描いています。明代の税制度である「人頭絹税」や「一条鞭法」といった言葉が、単なる歴史用語ではなく、人々の生活を左右する切実な問題として迫ってきます。役人たちが帳簿を操作し、私腹を肥やす手口の巧妙さには、思わず息を呑むほどです。
撮影は、金華の八卦村や東陽の盧宅といった実在の古鎮で行われ、その粉壁黛瓦(白い壁と黒い瓦)の徽派建築が織りなす風景は、まるで明代にタイムスリップしたかのような没入感を与えてくれます。市井の賑わい、人々の息遣いまでもが画面から伝わってくるようです。
主演のチャン・ルオユンは、数字にしか興味を示さない変わり者でありながら、内に秘めた強い意志を持つ帥家黙という難役を、説得力をもって演じきっています。そして、ワン・ヤンが演じる程仁清の、世俗にまみれた現実主義者から、正義に目覚めていく心の機微を見事に表現している点も見逃せません。脇を固めるウー・ガンやガオ・ヤーリーといったベテラン俳優たちの重厚な演技、特にウー・ガンが演じる地方士紳・范淵の、表面の儒雅さと裏腹の底知れぬ冷酷さは、物語に深みと緊張感を与えています。
原作の持つ歴史的な考証の深さには及ばないという声も一部にはあるようですが、明代の地方社会のあり様や、そこで生きる人々の喜怒哀楽を、サスペンスフルな展開の中に巧みに織り込んだ本作は、歴史ドラマの新たな可能性を感じさせてくれます。軽快なテンポで進む物語の中にも、当時の社会が抱えていた土地の兼併問題や役人の腐敗といった根深い病巣が描き出されており、見応えは十分です。細部まで作り込まれた世界観と、緻密な論理で展開される物語は、じっくりと歴史の闇に分け入りたいと願う知的好奇心旺盛な方々にとって、忘れられない作品となることでしょう。数字の向こう側に見えてくるのは、いつの時代も変わらない人間の業と、それでも失われない希望の光なのかもしれません。
中国ドラマ『天地に問う~Under the Microscope~』相関図

