中国ドラマ『慶余年2~麒麟児、挑む~』の各話ネタバレあらすじ
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【慶余年2ネタバレ】第1-2話あらすじと感想:死からの帰還、麒麟児の新たな闘い
待望の続編、『慶余年2~麒麟児、挑む~』がついに幕を開けました。シーズン1の衝撃的なラスト、主人公・范閑(ファン・シエン)が仲間であるはずの言氷雲(イエン・ビンユン)に刺されるという場面で終わってから、彼の安否を気遣い続けた方も多いのではないでしょうか。物語はまさにその直後から、息つく暇もなく動き出します。北斉からの帰路、死の淵に立たされた范閑。しかしそれは、巨大な権力に立ち向かうための、あまりにも危険な芝居の始まりに過ぎませんでした。今回は、死を偽り都に舞い戻った范閑が、いかにして絶体絶命の窮地を切り抜け、新たな闘争の渦中へと飛び込んでいくのか、その序盤の物語をじっくりと紐解いていきましょう。
死の偽装、すべては盤上の一手
物語は、北斉からの使節団が帰国の途につくところから始まります。第二皇子・李承澤(リー・チョンゾー)は、腹心の謝必安(シエ・ビーアン)に兵を率いさせ、范閑の行く手を阻みます。目的は、長公主・李雲睿(リー・ユンルイ)と結託して行っていた密輸の事実を范閑が暴く前に、その口を永遠に封じること。人質として、滕紫荊(トン・ズージン)の遺された妻子、師である費介(フェイ・ジエ)、そして弟の范思轍(ファン・スージョー)の命が差し出され、范閑に死を迫ります。
絶体絶命の状況下、范閑は投降を拒否。しかし、共に戦っていたはずの言氷雲の剣が、突如として范閑の体を貫きます。血を吹き出し、その場に崩れ落ちる范閑。誰もがその死を確信したことでしょう。しかし、これこそが范閑と言氷雲が仕組んだ「金蝉脱殻(きんせんだっかく)」の計。鑑査院三処が特注した伸縮性の剣と、懐に忍ばせた血糊袋を使った、命がけの狂言でした。
言氷雲は遺体を焼却するよう進言し、その混乱に乗じて、あらかじめ柴の下に穴を掘っていた王啓年(ワン・チーニエン)が范閑を救出。身代わりとして豚の半身を燃やすことで、追手の目を欺いたのです。二皇子は范閑の仮死を疑いつつも、彼の「死」の報は瞬く間に都へと広がっていきました。
偽りの死が揺るがす都
范閑死す――。その一報は、慶国の都に大きな衝撃を与えます。報せを聞いた慶帝は激怒し、鑑査院院長・陳萍萍(チェン・ピンピン)はあまりの衝撃に車椅子から転げ落ちるほど。父である范建(ファン・ジエン)は深い悲しみに暮れ、范閑を駒として扱ったと陳萍萍を激しくなじります。しかし、腹の底が読めないこの老獪な二人は、心のどこかでこの「死」の不自然さに気づいていました。聡明な妹・范若若(ファン・ルオルオ)に至っては、兄の死を信じず、気丈にも継母の柳如玉(リウ・ルーユー)を慰めるのでした。
一方、王啓年と共にひと足先に都へ潜入した范閑が目にしたのは、信じがたい光景でした。街は彼の死を悼む人々で溢れ、あろうことか商人たちは「范閑の遺品」と称した品々を売りさばき、一大商売となっている始末。すべては、范閑が生きていることが発覚した際に「君主を欺いた」という大罪を決定的なものにするための、二皇子の周到な罠でした。
身を隠すため、王啓年の家にかくまわれる范閑。そこで出会った王夫人の豪胆さや、娘の賢さには思わず笑みがこぼれます。束の間の安らぎでしたが、都に張り巡らされた監視の目をかいくぐる日々は、彼の心を休ませてはくれませんでした。
罪人、天顔を拝す
友・滕紫荊の妻子が、都に新しくできた高級妓楼「抱月楼」に囚われているらしいとの情報を得た范閑。しかし、死を偽った「欺君の罪」を背負ったままでは、身動きが取れません。彼は、王啓年の制止を振り切り、皇宮へ忍び込むというあまりにも無謀な賭けに出ます。
刺客を装ってわざと捕まり、慶帝への謁見を願う范閑。彼の前に立ちはだかった陳萍萍に、范閑は北斉で約束の援軍を送らなかったことを激しく問い詰めます。その瞳には、一瞬、本気の殺意が宿っていました。陳萍萍は多くを語らずも、范閑の覚悟を汲み取り、慶帝への取り次ぎを約束します。
ついに慶帝と対峙した范閑は、初めてその御前で膝をつき、これまでの経緯と仮死の真相を涙ながらに訴えます。そして、切り札として二皇子と長公主の密輸の証拠を突きつけ、さらには誰も知らなかった「神廟」の場所を告げるのです。終始背を向け、無関心を装っていた慶帝でしたが、その言葉に微かな動揺を見せます。結果、「失せろ」の一言で追い返されはしたものの、范閑はひとまずの猶予を得たことを確信するのでした。
生き延びるため、范閑は次に太子・李承乾(リー・チョンチエン)に接触します。当初はとぼけていた太子も、信じていた叔母・李雲睿が宿敵の二皇子と裏で繋がっていた事実を突きつけられ、范閑と手を組むことを決意。権力闘争の構図は、ここにきて新たな局面を迎えました。
まとめ
死の淵からの生還は、安息ではなく、より苛烈な闘いの幕開けを意味していました。欺君の大罪という最大の弱点を抱えながらも、持ち前の知略と度胸で慶帝から一時的な黙認を取り付け、さらには太子を味方につけた范閑。彼の目的は、自らの潔白を証明し、大切な人々を守り抜くこと。そのために、まずは滕紫荊の妻子が囚われているという謎の妓楼「抱月楼」の調査に乗り出します。そこには、また新たな陰謀と危険が待ち受けていることでしょう。物語は始まったばかり。麒麟児・范閑の次なる一手から、目が離せません。
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『慶余年2』3-4話ネタバレ感想:抱月楼の悲劇と衝撃の楼主。范閑、兄弟と皇子たちの謀略の渦中へ
北斉からの帰還を果たしたものの、その生存を隠し、影の中から都を窺う范閑。彼の胸には、亡き友・滕梓荊の遺族を必ず見つけ出すという、固い誓いがありました。その唯一の手がかりは、都で新たに隆盛を誇る妓楼「抱月楼(ほうげつろう)」。第3話と第4話では、この妖しくも華やかな楼閣を舞台に、悲劇と驚愕、そして皇子たちの権謀術数が激しく交錯します。一人の老人のささやかな願いが踏みにじられる時、范閑の怒りが静かに燃え上がりました。
父の愛、無残に散る
物語は、滕梓荊の妻子の行方を追う范閑が、抱月楼に野菜を納める老人・金(ジン)じいと出会うところから静かに始まります。彼の娘は、役人に理不尽な金を要求され困窮した父親を助けるため、自ら抱月楼に身を売ったというのです。その健気な娘を救い出したい一心で、危険を顧みず潜入の機会を窺う老金。その姿に、友を守れなかった自らの過去を重ねたのでしょうか、范閑は彼に手を貸すことを決意します。
野菜籠に身を隠して楼内に忍び込むという、どこか滑稽でいて、しかし切実な潜入劇。范閑の機転でどうにか娘に会うための権利を得た老金は、希望に顔を輝かせて楼の中へ消えていきました。しかし、彼が再び姿を現した時、その希望は無残にも打ち砕かれていました。法外な身請け金を突きつけられ、娘を救うことは叶わなかったのです。よろめきながら范閑に事実を告げた直後、老金は全身に刻まれた無数の傷によって、息絶えてしまいます。
ささやかな幸せを願う一人の老人の命が、権力者の遊戯の駒として無慈悲に散っていく。その亡骸が何事もなかったかのように手際よく片付けられていく様は、この抱月楼、ひいては都の深い闇を象徴しているようで、観ていて胸が締め付けられます。范閑の瞳に宿った怒りの炎は、もはや誰にも消し止めることはできないでしょう。
梁上の君子、驚愕の対面
怒りに震える范閑を制したのは、腹心の王啓年でした。しかし、その王啓年にも危機が迫ります。彼の妻と娘が第二皇子・李承澤(り・しょうたく)によって人質に取られてしまったのです。絶体絶命の中、王啓年は驚くべき行動に出ます。なんと、第二皇子に寝返り、范閑の生存と抱月楼潜入計画を密告したのです。
一方、歌女・桑文(そうぶん)の手引きで楼の梁裏に潜んだ范閑は、ついに楼主が帳簿を確認するために現れるその時を待ちます。固唾をのんで見守る中、部屋に入ってきたその人物の顔を見て、范閑は我が目を疑ったに違いありません。そこにいたのは、あろうことか実の弟、范思轍だったのですから。
「死んだはずの兄」との再会を無邪気に喜ぶ范思轍。彼はこの抱月楼を、風雅な芸術サロンにしようという夢を語りますが、その足元で起きている悲劇には全く気付いていませんでした。老金の死を知らされた范閑の怒りは頂点に達し、思わず弟を殴りつけます。范思轍は、店の経営は支配人の袁夢(えんむ)に一任しており、非道の数々を全く知らなかったと涙ながらに訴えます。商才に長け、金儲けにしか興味がないように見えた弟の純粋さが、かえって彼を危険な罠に引きずり込んでしまったのです。兄弟の間に流れる気まずく、そして悲痛な空気は、観る者の心を深く揺さぶります。
皇子たちの宴、仮面の下の真実
事態は、范閑と范思轍の兄弟喧嘩では終わりません。范閑を捕らえんと第二皇子が兵を率いて楼を包囲。時を同じくして、もう一人の楼主である第三皇子・李承平(り・しょうへい)までもが姿を現します。さらに、その混乱を収めるかのごとく、太子・李承乾(り・しょうけん)が官兵を率いて登場。小さな妓楼は、皇子たちの権力闘争という、巨大な盤上の縮図と化しました。
ここで、王啓年の「裏切り」が、実は范閑が仕掛けた壮大な芝居であったことが明らかになります。第二皇子を公の場に引きずり出し、その悪事を白日の下に晒すための罠だったのです。太子は、この状況を利用して第二皇子の勢力を巧みに削ぎ、范閑に恩を売ります。三人の皇子それぞれの思惑が火花を散らす様は、まさに圧巻の一言。彼らの言葉の裏にある真意を探りながら観る時間は、息つく暇もありません。
最終的に、第二皇子は滕梓荊の妻子を解放せざるを得なくなり、この場は一旦収束します。しかし、彼のあまりにも素直な敗北の認め方には、何か裏があるように思えてなりません。袁夢という駒を失っただけで、彼の力は少しも揺らいではいないのです。
まとめ
抱月楼を巡る一連の騒動は、滕梓荊の家族が救出されるという形で、ひとまずの幕を下ろしました。しかし、范閑が「死を偽った」という事実は、依然として第二皇子に握られたままの危険な切り札です。そして、この事件の背後には、まだ見ぬ黒幕の影がちらついています。范閑の戦いは、まだ始まったばかり。都の闇は、彼が思うよりもずっと深く、複雑に広がっているようです。
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【慶余年2】第5-6話ネタバレ感想:范閑、絶体絶命!帝の家宴で砕かれた正義と妹の未来
死んだはずの英雄が、再び都の土を踏む。しかし、その帰還は決して喝采に迎えられるものではありませんでした。范閑が己の死を偽装したという事実は、第二皇子・李承澤(リ・チェンゾー)にとって格好の攻撃材料。范閑は「復活」が巻き起こすであろう民衆の反感という嵐を鎮めるため、一世一代の大芝居を打つことを決意します。しかし彼を待ち受けていたのは、皇子たちの剥き出しの敵意、そして父である慶帝の、底知れぬ深淵のような采配でした。正義を手に都へ戻ったはずの麒麟児は、その牙を抜き取られ、最も大切なものを奪われるという手ひどい洗礼を受けることになります。
死という名の衣を脱ぎ捨てて
北斉からの帰路、范閑は死を偽装したことの落とし前をつけるべく、知恵を絞っていました。第二皇子の配下・謝必安の執拗な追跡を崖からの遁走で振り切り、ようやく使節団に合流した彼の目に飛び込んできたのは、予期せぬ人物——北斉の大公主の姿でした。彼女は兄である北斉皇帝の命により、南慶の大皇子・李承儒(リ・チェンルー)に嫁ぐために随行していたのです。
この偶然の出会いを、范閑は見逃しませんでした。巷では、彼の「遺品」が高値で取引され、英雄の死が美談として消費され尽くしている頃。この状況で「実は生きていました」と顔を出せば、民を欺いたと非難されるは必定。そこで彼は、北斉の公主を巻き込んだ壮大な物語を紡ぎ出すのです。
「范閑は、北斉の貴重な典籍を命がけで守り抜き、大宗師との死闘の末に死を偽って生き延びた」
この作り話を、北斉という国の「顔」を背負う大公主に語らせることで、物語に絶大な説得力を与える。范閑が灰にまみれたみすぼらしい姿で現れ、護衛の高達(ガオ・ダー)が涙ながらにその「苦労」を証言すれば、疑う者はいませんでした。死という重い衣を脱ぎ捨て、英雄として再び光の下に立つための、見事な一幕でした。
城門で交錯する、皇子たちの矜持
しかし、都への道は平坦ではありません。第二皇子は、范閑の帰還と、辺境から凱旋する大皇子の入城が重なるよう、周到に事を運んでいました。案の定、城門を目前にして、両者は鉢合わせとなります。
「范閑ごときが、なぜ道を譲らぬ」
馬上から見下す大皇子・李承儒の態度は、敵意そのもの。彼は長年、国境で命を張ってきた武人であり、都で名を馳せる范閑の存在を快く思っていません。対する北斉の大公主も、一国の代表としての誇りから一歩も引きません。二つの強大な矜持がぶつかり合う中、范閑は巧みに火に油を注ぎ、緊張を煽ります。
一触即発の空気の中、突如として馬が暴れ出し、范閑に襲い掛かります。しかし、その馬は瞬く間に護衛の高達によって斬り捨てられました。誰が仕掛けたのか、その真相は砂塵の向こう。この一件で、大皇子の范閑に対する憎しみは、さらに燃え上がることとなりました。結局、太子・李承乾(リ・チェンチェン)が間に入り、双方が並んで入城するという形で幕引きとなりますが、都には新たな火種が蒔かれたのです。
帝王の家宴、非情なる一閃
宮中に戻った范閑を待っていたのは、慶帝が主催する家宴でした。表向きは労いですが、その実態は、范閑という駒を改めて盤上に戻すための儀式に他なりません。范閑は廷杖(ていじょう)を受けたふりをして痛々しく登場し、同情を買おうと試みます。
そして、機は熟したとばかりに、第二皇子が長公主と結託し、北斉の密偵組織・錦衣衛(きんいえい)と密輸を行っている事実を告発します。しかし、慶帝の反応は范閑の想像を遥かに超えていました。
「証拠は」
范閑が切り札として鑑査院の権限を示す提司(ていし)の腰牌を掲げると、慶帝はこともなげにそれを取り上げ、庭の湖へと投げ捨ててしまいます。静寂に包まれる宴席。それは、皇帝の許しなくして、誰一人として正義を執行することは許されないという、絶対的な権力の誇示でした。
さらに慶帝は、追い打ちをかけるように、范閑が何よりも大切にする妹・范若若を、第二皇子派である靖王(せいおう)の世子・李弘成(リ・ホンチョン)に嫁がせるよう命じます。范閑の激しい抵抗も、皇帝の決定の前では虚しい叫びとなるだけでした。彼の牙を抜き、手足を縛り、心を折る。まさに帝王の非情な一手です。宴の終わり、范閑が平然と歩く姿を見て、彼が傷を偽っていたことに気づいた第二皇子の顔には、冷たい笑みが浮かんでいました。
まとめ
知略を尽くして死の淵から舞い戻った范閑でしたが、彼を待ち受けていたのは、さらに複雑で冷酷な権力の世界でした。第二皇子の策略は証拠ごと焼き払われ、頼みの綱であった鑑査院の権力は慶帝自らの手で湖底に沈められました。そして、愛する妹の未来まで人質に取られてしまった今、彼はまさに絶体絶命の窮地に立たされています。しかし、このまま黙って引き下がる范閑ではありません。一度は手放した鑑査院の力をその手に取り戻し、この理不尽な盤面を覆すため、彼の新たな戦いが静かに始まろうとしています。
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【慶余年2】第7-8話ネタバレ解説:涙の別れと反撃の序章。范閑、鑑査院を掌握し二皇子に宣戦布告
北斉との密輸事件の証拠はもみ消され、史家鎮の真相も闇に葬られようとしている――。立て続く障壁に、さすがの范閑も深い無力感に苛まれます。しかし、彼はここで終わる男ではありません。陳萍萍の後押しを受け、鑑査院の腐敗した部署のトップに就任。それは、巨大な権力に立ち向かうための、新たな戦いの始まりでした。一方で、愛する家族に危機が迫り、范閑は断腸の思いで大きな決断を下すことになります。
失意の底で灯る火
物語は、皇室内の不穏な空気から幕を開けます。太子・李承乾(リ・チェンチエン)が密かに長公主・李雲睿(リ・ユンルイ)の肖像画を描き続けていたことが皇后に知られ、激しい怒りを買います。これは単なる思慕ではなく、皇室を揺るがす醜聞になりかねない危険な火種。驚愕した太子は、自らの手で絵を燃やし、想いを断ち切ることを誓うのでした。
その頃、范閑は八方塞がりの状況にありました。頼みの綱であった史家鎮の証拠は、二皇子・李承澤によって焼き払われ、慶帝からは提司の腰牌(身分証)まで投げ捨てられる始末。どうしようもない怒りと無力感にさいなまれた彼は、亡き母・葉軽眉(イエ・チンメイ)が鑑査院の門前に遺した石碑を、ただ無心に洗い清めることで憤りを鎮めようとします。その姿は、まるで拠り所を失った子供のようにも見え、痛々しくてなりません。
一度はすべてを投げ出そうとした范閑。しかし、そんな彼の前に現れたのが、鑑査院院長・陳萍萍でした。彼は静かに腰牌を返し、諦めるなと諭します。「相手の手の内を知り尽くすまで、勝負は終わらない」。その言葉は、消えかかっていた范閑の心の炎を再び燃え上がらせるのでした。滕梓荊(トウ・ズージン)や史家鎮で理不尽に命を落とした人々の無念を晴らすため、彼は再び立ち上がります。
断腸の思い、弟との別れ
陳萍萍が范閑に示した次なる一手、それは鑑査院一処の主辨(トップ)の座に就くことでした。一処は都の百官を監察する重要な部署ですが、前任者の死後、腐敗と怠慢が蔓延る巣窟と化していました。陳萍萍は、范閑がこの場所を掌握し、自身の勢力を築き、二皇子に対抗することを期待したのです。
しかし、范閑が新たな戦いに身を投じようとした矢先、今度は家族に危機が訪れます。妹の范若若は望まぬ縁談から逃れようとし、そして何より深刻だったのが、弟・范思轍の問題でした。彼が関わっていた妓楼「抱月楼」が、実は二皇子が范家を陥れるために仕掛けた罠だったのです。
このまま都にいれば、范思轍の身が危ない。父・范建や継母・柳如玉が動揺する中、范閑は冷静に、しかし断固として決断します。弟を遠く北斉へ逃がすことを。
降りしきる雨の夜、旅立ちの準備をする范思轍。いつもは商売のことしか頭にないように見えた彼が、兄の言葉を信じ、未来のために異国の地へ向かうことを受け入れます。その姿を見送る父・范建が、初めて息子の成長を認める場面は、本作のしみじみとした人間ドラマの深さを感じさせます。范閑は莫大な資金と護衛を弟に託し、必ず迎えに行くと約束するのでした。家族の絆の温かさと、引き裂かれる切なさが胸に迫る、忘れがたい名場面と言えるでしょう。
腐敗の巣窟へ、反撃の狼煙
家族の問題に一つの区切りをつけた范閑は、いよいよ鑑査院一処に乗り込みます。そこは想像を絶するほどの腐敗ぶりでした。役人たちは職務を放棄して賭け事に興じ、賄賂の品が山積みになっています。その象徴が、兵部が八百里も先の産地から氷で鮮度を保ち運んできたという高級魚「雲夢魚」。これは部署間で不正に横流しされ、役人たちの私腹を肥やすための道具となっていたのです。
そんな中、ただ一人、黙々と公務をこなす主簿・鄧子越(デン・ズーユエ)の姿が。范閑は彼の存在に光を見出し、腹心の王啓年と共に、この淀みきった組織の抜本的な改革に着手します。
そして、范閑の反撃は、誰もが予想しない形で実行されました。彼は「魚が新鮮でない」という口実で、不正の温床である撿蔬司(けんそし/宮廷の食材調達部署)の査察を強行。さらに、敵であるはずの二皇子をわざわざ現場に引き連れていくのです。
撿蔬司の責任者である戴公公(ダイ公公)は、二皇子の母・淑妃を後ろ盾に持ち、高を括っていました。しかし、范閑と、その隣に立つ苦虫を噛み潰したような顔の二皇子を見て、ことの重大さに気づきます。范閑は衆人環視の中、戴公公の長年にわたる汚職の数々を記した帳簿を突きつけ、その罪を暴き立てます。追い詰められた戴公公が差し出した三千両もの賄賂。なんと范閑は、それを臆面もなく受け取るのです。
公然と賄賂を受け取るという前代未聞の行動。それは、金が目的ではありません。二皇子の目の前で、彼の息のかかった人間を断罪し、その不正の証である金を受け取ってみせることこそが、范閑流の「宣戦布告」だったのです。「あなたの仕掛けた罠も、あなたの築いた金脈も、すべて私の手の中にある」と、無言のうちに叩きつけた挑戦状と言えるでしょう。この一件は、都中に衝撃を与え、范閑と二皇子の対立が、もはや後戻りのできない段階に入ったことを示していました。
短いまとめ
失意の底から這い上がった范閑は、家族との辛い別れを経て、より一層強く、そしてしたたかになりました。鑑査院一処という新たな武器を手に入れ、二皇子とその背後にある巨大な闇へ、大胆不敵な一撃を放った第7-8話。老金頭のような弱者たちの無念を晴らすため、范閑の孤独で壮絶な戦いは、これからさらに激しさを増していくことでしょう。